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再録~『カブのイサキ』第1話評

2008/08/16(Sat)19:59

じんぷうさんほかのために、2007年6月28日の『カブのイサキ』についての論評から再録しようと思う。
 

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物語を極限まで単純化してまとめれば、
「飛行機を飛ばす話」
「飛行機にこっそり乗る話」
の二つに大きくまとめることができる。

(勿論、その中には、描写に於ける作者の嗜好が大きく現れているのはいうまでもないが、たとえば、これがテキスト文だとして、国語の課題をつくる、という場面を想像すると、そういった行動への自然さがおわかりになるだろう。
国語教育の現場などにおいては、それらの骨に肉を付ける仮定で「道徳的文脈」という塩こしょうがかかるのだが、それは全く別の話。)

「空を飛ぶ話」における方向性を端的にいえば、人と「場所」との関わりの問題、すなわち、「場所の重荷」に関わる問題である。
人間と場所との間には、融和だけではなく、或る意味において緊張感がある。
その緊張感は、たとえば国土が広くなればなるほど強まっていく。
「生まれる前からここはイナカだ」、といわれながら、では、なぜそこを離れていかないのか、という問に答えるためには、それ以上に、「人間と場所との緊張性」があるからだ。
作品に出てくる「飛行機」は「借り物」であり、燃料も、すぐには購入できない高価な貴重品だということは、容易に描写から分かる。彼らのホームランドの北には、「二千メートル」の「山脈」が広がっており、たやすい越境を、あくまでも拒絶する。非常に、「場所」に拘束されている彼らである。

人間と「場所」との緊張性は、そこにとどまる欲求と、そこから逃れようとする欲求のバランスをとりながら、人間の前に現れている。その両者は、「場所」に対しての、「ノスタルジア」や「メランコリア」のバランスをとっている。

そう考えると、当該作品(芦奈野作品、特に『ヨコハマ買い出し紀行』においても)が、本来的な「ノスタルジア」ではないにもかかわらず、「ノスタルジック」とよばれるのは、人間の「場所から逃れようとする欲求」に対して、現代人(特にこの作品を多く「消費」する都会人)にとって、それはあまりに簡単に満たされてしまう欲求であるため、その全く逆の状況を目の当たりにしたときに、感情が補完されるのではないか。

「イサキ」が「空を飛ぶ」ことにより、彼らの、場所への拘束性が強い状況全体の雰囲気全体をさして、「ノスタルジック」、と評してしまうのではなかろうか。「飛行機でホームランドを離れる」といった、或る意味単純な話なのに、「イサキ」に「ヒロイック」なモノを感じてしまうのも、「イサキ」と「場所」との深い結び付きと、ひょっとしたら、その向こうにあるその「場所」に対する意識が、打ち破られようとする物語だからであろう。

 


さて、「飛行機にこっそり乗る話」についてだが、これは、間合いを一定にとろうとする駆け引きの話、とのみ解釈されるべきか。

「飛行場―――」「ちっ」のシーンから、「去りながら聞く」あたりは、あからさますぎる「キャラクターらしい」サインであり、それを全編通して、「イサキ」が「スカしていた」、とすると――たとえば「わっ……ガソリンっ重っ!」と、『わざわざ』声に出して言っているこの科白、これが物語の伏線にとどまらず、「スカした」発言だとしたら――。

それで二人の距離が保たれているということは、二人の「解釈コード」が、極めて近づいていることを意味するので、「駆け引き」ではなく、実は本質は、「超ベタ」なのかもしれないと感じた。
「駆け引き」「距離感」を「演じながら」、「超ベタ」を実行する、というのは、なかなか、いや、かなり難しいことであり、そういった意味で、この二人は外見より、いや、それよりかなり進んだモノとして、発展しているのかもしれない。

 


余談だが、因みに、場面は相変わらず神奈川県三浦地方である。しかも、文化的・経済的・地理的に関東平野と隔絶している、という設定らしい。 
 
 

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No.51|Comment(1)Trackback()

ひとこと

無題

2008/08/17(Sun)14:23

うちのサイトの「カブの掲示板」に、
この評論を紹介させて頂きました。

みんなの意見も聞きたいですね~

No.1|by じんぷう|URLMailEdit

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